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東京・世田谷の小料理屋「よしざわ」。カウンター越しに、いつもの 釣り談議が始まった。 「これがマスターが伊豆で釣ったメジナ? いい型だね」。体長40センチ。しっぽがピンと張った濃紺のメジナの はく製を手に、常連客が声をかけた。 刺し身を出す店主の金本なみおさん(45)が相好を崩す。 「ふふふ。さおが満月のようにしなりましたよ」 店内にはほかにも50センチ級の桜色のマダイ、真っ黒なソイなど、 まるで生きているような魚が飾られている。 「マスターのはく製は潮の香りまでする」。ますますうれしい一言に、 金本さんの包丁さばきがさえる――。
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金本なみおさん(中央)の店では、はく製を 囲んで釣りの話で盛り上がる(東京・世田谷区で)= 野本裕人撮影
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東京生まれの東京育ち。子供のころは近くの多摩川で釣りをして遊び、中学に入ると「海のでっかい魚を」と、
友達と磯に出掛けるようになった。
ある日、釣具店でイシダイのはく製に目が行った。「模型作りより面白そう」。でも道具や塗料だけで何万円。
小遣いではとても手が届かなかった。
「『せめて本ぐらいは買ってこい』って、親が特別に小遣いをくれましてね」。 この時買ったはく製の教本は茶色くなった今も大切にしまってある。
1年ほど前、インターネットで、「はくせいスクール」(栃木県栃木市)のメール通信教育を見つけ、その日に 受講を申し込んだ。
アマ全国大会にも出た腕前のゴルフも一切やめて、のめり込んだ。 「ゴルフより、あの時の夢を手にしたいという気持ちの方が強くなっちゃった」
釣り愛好家は千数百万人と言われ、釣果を魚拓にして残す人も多い。 でも、はく製にまでしようという愛好家はまだ、それほど多くない。
うろこの付いたままの皮を型に張って色づけする。 釣った魚はすぐ変色するから、生きた魚の色を再現するのが1番の難関であり、妙味でもある。
「釣ったらまず魚の色を覚え、家に帰ってから、その色を試行錯誤で探すんです」。 自慢のメジナも青に金銀、白黒、こげ茶と様々な色を重ね、欲しい深い濃紺色が出せた。
開店前のひと時、はく製に取り組む。料理の仕込みと一緒で、一体ずつじっくり仕上げていく。 はく製に向かうと、子供時代の釣りを思い出す。 そして、もういない両親の笑顔……。「この趣味は自分を童心に帰してくれるんです」
近ごろは、料理だけでなく、はく製を注文する客も出てきた。 「次はおれの釣った渓流魚をはく製にしてよ。ヤマメなんかきれいだよ」
「よし、今度の休みに一緒に釣りに行きましょう」。金本さんにとって渓流釣りは初挑戦。 はく製作りの夢が、また広がった。(遠藤 雅也)
◇漫画「釣りバカ日誌」原作者 山崎十三さん
「魚拓以外にも、その手があったか」。 魚のはく製が釣り愛好家の間で静かなブームになっていると聞いたとき、そう思いました。
先日、屋久島でクチジロと呼ばれるイシダイ科の魚を釣り上げたのですが、これが63センチ、4・5キロという 私にとって4年ぶり、そして過去最高の釣果。小躍りするほど、うれしかった。
もちろん魚拓はとりました。でも、はく製にしていたら、もっと鮮やかにあの時の手応えを家で再現できたはず。 次は漫画の主人公のハマちゃんも脱帽する大物を釣り、はく製にして仲間に自慢したいですね。
◇
魚のはく製は釣具店のほか、博物館などでも見ることができる。 神奈川県立生命の星・地球博物館(小田原市入生田、電0465・21・1515)では海水魚、淡水魚合わせて
約130点が展示されている。
(2003年3月31日発行)
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